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sentence2805/ヤブ医者の失敗その1(0601) ......

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sentence2805@ 日頃思うことだが、日本の医療のよいところは、なんといっても一旦医師免許をとれば、後は何科だろうと自由にできることだと思う。診療のやりかたにしても絶対的なマニュアルがあるわけではなし、思ったことを存分にできる。現在日本は医療先進国とは言えないが、それでもわたしはそうである限り、医者を続けたいと思っている。
 しかし、、である、患者さんの側から見れば、一定水準の医療技術はみたされてないと恐ろしい。この何年かは、病院に限って、第三者の評価機関なんかもあるようだが、個人医院にそんなものはない。医者の道にはいって30年が近付くにつれて、自分の側から、「いつのまにか浦島太郎になっているのではないか」という不安が強くなっている。そこでまず思い付いたのが、医者どうしで呼びあって互いの診療を観察し、あとで議論することだ。外来小児科学会の教育検討会というのに属しているから、まず声をかけたのがそこの女医さんであった。玉に出席したフォーラムで指導力を買ってだったのだが、なぜか、ほとんど間違った方向に話が行き、立ち消えになった。医者の世界では、「見ず知らずの」「別の大学の」同業者は煙たがれる。おそらくデータがない、からだと思うが、医者同志、全国何千の同業者にランダムに評価をうけるようにするのは並大抵ではない。でも身内というか、同じ地区の医師会ではやはり無理だろう。そこで、この何年か行われているらしい、基金(医師からの請求書をチェックする公的機関)の個別指導が頭に浮かんだ。これは本来、水増しなどの、「不正請求」を繰り返す医師に、懲罰的というか監査を行うものらしい。これをこちらからお願いするわけだ。これなら、お互いの法律的根拠も守られる。それに、実際は、自動車免許の講習みたいに6年ごと、集団的(個別)指導というのが知らぬ間に出来ていて、診療時間というのに『講習会」行かなくてはならない。たとえ6年一回でも、患者をおいて一番需要のある時間に出かけるのは私の倫理観に反する。個別指導なら、あっちがくるのだから良いと考えたわけだが、あさはかであった。
 医師会の事務局長が飛んできて、お願いだから止めて!と頼まれた。なにやら医師会からも会長以下6名ぐらいが同席させられて、一緒に叱られることになるから、というわけだ。なにも悪いことをしてなくて、自分で頼むのだから、相手も紳士的だろうに、と思うのだが、普段は、集まりでも挨拶すらしない人間にここまで頼まれ、たぶん、医師会はハチノ巣になっているから、止めた。わたしは普段、したいことを自由にさせてもらっているので、ずいぶん感謝している。ここで表立ったことをしたくない。毎日の診療に終われていると、いつのまにか浦島太郎だ。これを防ぐ手立てさえあれば、日本は世界一の「あかひげ医者」の国になれるのに残念だ。
 そんなことを考えて、自らを戒めるはずだったのに、たいそうな失敗をした。去年の後半はマイコプラズマの大流行で大変忙しく、つい気持ちの上で、慢性の元気な患者さんは後回しにした。よくいう「とりあえず様子をみて」しまったのだ。ヨシさん(仮名)の事だ。去る10月に4け月ぶりに来た高血圧と不整脈の患者さんだ。それまで、血圧が正常だと、自分の判断で薬を止めてしまう人だった。肝心の不整脈に関しては、自覚症状がないので、気にしなかったのだろう。その日もバタバタしていていたが、自覚症状が、数日前からのめまいだから、すこし気になり、一度は脳外科に紹介する気にもなったが、なにしろ紹介状をかく時間もない。やたら肺炎が多い。みんな2時間待ちの状態で、とりあえず、以前のんでいた薬を4 日分だして、4日後来るように言った。症状が良くなってやってきて、次の日にはよくなったという。やれやれということで、つい前薬を定期薬としてだして、彼女のことは、まず、と忘れていたら、後で脳卒中で運ばれたと娘さんから電話があった。聞くと中大脳動脈が 98%つまっていたとのこと。これはわたしの管理が悪い。きっと、服薬を中断しているときに、血栓がバンバン飛んでいたのだろうと想像する。できては消え出来ては消え、そのうち、湿った雪のように血管に積もってゆく。不安を感じた時に「とりあえず」ではなく、すぐに画像でチェックすべきだった!すぐに症状がなくなったのと、忙しさでルーチーンを省いた。月に一度はお見舞にいくが、言葉も出てきて左半身も動く。ことは、ちょうど超音波に頚部動脈用プローブ(超音波発信機)を注文して1週間目の事だったと思う。機械はそのその事のあとに届いた。全てが、いろんな事のはざかいにあった。「医者は自分が係わった不幸な患者さんの年だけ、寿命が短くなる」というあるつぶれた病院の事務長の名言を又思いだした。あやまってすむ問題ではない。私はヨシさんに顔向けができない。(060131)